名古屋市教育委員会への上納問題
やっぱり あったんだ。
「あるだろう」とは思っていたが、名古屋市教育委員会の人事に関する下世話なやり取りが露呈した。
名古屋市教育委員会は2月11日、「教員の人事を担当する教職員課が毎年、校長会など多数の教員団体から金品を受け取っていた」と明らかにした。
各団体が校長などに推薦する教員の名簿とともに渡されており、20年以上の慣習で例年計200万円超に上るとみられる。
毎年の額を国会議員の裏金と比較すると、小規模ではある。
それでも20年以上の慣例で、名古屋市教の教職員課には4000万円近くの入金があったことになる。
何より、公立学校校長の人事権が賄賂で操られているのならば、かなり悪質。
最も恐ろしい事態
しかし、マスコミや世論が見落としているポイントが一つあった。
今回の名古屋市教育員会の金品やり取りの規模は、4000万円程度。
国会の自民党裏金疑惑に比べると少ないだろうし、全国マスコミはあまり興味を示さないだろう。
つまり「縦」に掘っても、それほど面白い進展はない。
今回注目すべきは、何と言っても「横」への広がり。
端的に言うと、周辺の市町村や県の教育員会でも、似たような上納が行われている可能性が高い。
国民としては「名古屋市特有の時代遅れの悪慣習」で終わって欲しいが、横に広がっていたらそうもいかない。
今回の記事では、行政がこのような悪慣習に手を染めてしまうメカニズムと、横に広がる懸念の根拠を説明したい。
よく聞くような行政の悪習だが、子どもをかかえるご家庭ならば、きっと見過ごせない問題だろう。
教育委員会の問題を語る私のこと(プロフィール)
田舎の県で地方公務員として、約15年間勤務する。
前職の経歴と風貌から、公立病院のクレーム係などハードな部署に回され続ける。
勤務の傍ら、行政組織の闇の部分も多々経験する。
第二子誕生の際、当時の男性では珍しい1年間の育休を取得。
育児をこなしながらも、今後の人生を真剣に考え公務員を退職して独立。
引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、ブロガーとして歩み始める。
・もっと知りたい方 → 私のプロフィールへ(内部リンク)
金品上納の詳細
名古屋市教育委員会によると、市内には校長会や教科ごとの研究会などで80以上の団体が存在する。
今回問題となった教職員課は、そのような団体から毎年夏頃にそれぞれ5千円~3万円の現金や商品券を受け取っていた。
帳簿のようなものもあり、2023年度は少なくとも40団体から渡されたとしている。
市教委は2023年12月に事態を把握し、同課職員に聞き取りを行なっていた。
職員は金品授受による人事への影響を否定し、「陣中見舞いや激励として受け取っていた」と説明。
受け取った金品は、具体的に業務が早朝から深夜まで続いたときのお菓子や飲料の代金のほか、採用試験後の打ち上げなどに使っていた。
まさに「ウラ帳簿」。
なお、人事案を承認する幹部1人に渡っていた金額は、2018年度から合計で200万円以上にのぼる。
年間で40万円ほどだとして、収賄としては小型に分類されそうだ。
名古屋市の河村市長は、「とんでもないことだ。金品が人事に反映されたと思われても仕方がない。徹底的に真相を究明する」として、調査チームを設置し今年度内に中間報告をまとめる考えを示した。
名古屋市での今後の展開
今回の標的となっているのは、ひとまず「教職員課」だけ。
しかし関連する他の課からも、金品上納は出てくるだろう。
「教職員課で上手くいったのだから、関連する課でも同じ関係ができる」と悪巧みするのは、当然だ。
ただ今回の一つの市の不祥事では、これくらいが関の山。
警察も「収賄」事件で動くこともないだろう。
新たに判明した新事実
名古屋市の追加の報告では、学校に教育内容を指導する教育委員会の「指導室」が、教員などでつくる団体から、90万円分以上の金品を受け取っていたことが判明。
市教が関係者に聞き取りをしたところ、今年度は10以上の団体から、現金や商品券をあわせて90万円分以上受け取っていたことが確認されたのだ。
金品は指導室長が受け取り、室長の机の鍵がかかる引き出しで保管していた。
さらに机の中には、前年度から繰り越した約200万円の現金と数万円分の商品券もあったとのこと。
指導室長によると、「深夜にまで勤務が及んだときのタクシー代などに充てて、私的な遊興費には使っていない」とのこと。
地方の小役人には手に余る悪習
結果的に上納された金品は、地方の小役人には手に余ったようだ。
指導室長は、言い訳できる(市民に同情してもらえる)使い道を模索しつつ、次の異動まで持ち堪える。
深夜のタクシー代は公費で請求できるだろうが、これも請求しにくい実情がある。
経理担当から「そんなに残業せずに帰りなさい」と釘を刺されるからだ。
そんな数年間を耐え抜き異動の時期が来たら、次の担当室長に内情を話し秘密裏に引き継ぐ。
金額の規模と収め方がまさにスモールサイズだが、充てられた歴代室長も災難だっただろう。
一度始まった「なれ合い」を辞められずに、ズルズルと続けるしかなかったのだ。
問題は、横の広がり
今回の上納問題に関して、国民として危惧すべきところは、別のポイント。
名古屋市教育委員会は調査チームを立ち上げたが、判明する金額の規模は小さいだろう。
本当の問題は、他市町や県の教育委員会にこの悪弊が広まっていること。
特に近所に本部を構える愛知県教育委員会などは、その手法が漏れ伝わっているだろう。
名古屋市教育委員会とは隣りの建物で、歩いていける距離だ。
行政の悪習が生まれるメカニズム
行政の人事は特殊だ。
民間企業と異なり業績が分かりにくいので、人事担当も甲乙をつけることが困難になる。
「異例の抜擢」が行われることは、まずない。
自治体や教育委員会では、年末前から翌年度の人事案の検討に入る。
私が勤務する自治体でも、人事課が会議室を数か月借り切ることが通例だった。
業績評価がしづらい分、ある意味「年功序列」で当てはめていくだけ。
しかし上のポストが空いていて、「横並びの中で誰を上げるか」という判断はいまひとつ決め手に欠ける。
そこに、今回の悪習が生まれるきっかけがあったのだ。
教育委員会の職員は、主に自治体職員
教育委員会の職員構成は、教員からの出向者も一定数存在するが、多数はその自治体の職員だ。
そのため、「現場や教員側の事情が分かっていない」などの批判を受けることがある。
そんな批判を回避するため、現場の声を吸い上げる仕組みが構築される。
そのような状況下で、名古屋市の教員団体は「おつかれさま」の意味を込めて金品を上納し始めたのだろう。
この金品上納がどれだけ人事に影響を及ぼしていたのかは謎だが、教委側も金品を享受できたうえに、「人事案」を検討するのにとても役立っていただろう。
教員団体側もお気に入りの教員を校長にさせることで、求心力を高められるメリットがある。
上納金額にポイント2つ
今回のポイントは、上納金額だ。
そのひとつめは、毎年5000円~3万円と比較的金額が低いことで、罪の意識も低いと見受けられる。
これならば「収賄」の意識ではなく、大変な人事課への「陣中見舞い」名目として認識できる。
食べてなくなる飲食物の方が安全だっただろうに。
ふたつめは、20年以上も続けている悪習なのに、金額が吊り上がっていないこと。
これは上納する団体が多数あるにも関わらず、上納金額と人事の恩恵が釣り合っている団体が多いのだろう。
名古屋市教育委員会から始まった流れの今後
2024年2月19日の定例会見で河村たかし名古屋市長は、問題を調査するチームのメンバーを発表。
大学教授と弁護士合わせて5人と副市長が、関係者に対するヒアリングを行なう予定だ。
20年以上の悪習ながらも、蓄積金額はそれほどではない。
名古屋市の問題は、あのユニーク市長が面白おかしく発表していけばよい。
全国的な問題としては、どこまでこの悪習が横方向に伝播しているのか。
近隣の教育委員会には、そのなれ合いの手法が感染しているのではないか。
どの地方でも存在しても不思議ではない悪習だが、国や文部科学省が本腰をいれて「浄化」する日が来るのだろうか。
あわせて読みたいイチ押し記事
・こちらも性善説で成り立つシステム! 子どもに教えたい仕組みとは?(内部リンクへ)
『 【懲戒処分がラージ級!】コンビニ コーヒー注ぎすぎ校長にみる「誰もが誘惑されてしまう心理」と予防策 』
・こんな記事も書いてます、大学無償化で始まる不可解な制度 ↓
コメント