税金滞納のケースはまちまちだが
私は公務員を退職した。
私が暮らす田舎では、銀行員か公務員になるくらいしか、地元での働き口がない。
それでも公務員を退職したのは、その特有の業務に嫌気が差したため。
そのイヤ~な業務として筆頭に挙げられるのは、何と言っても「滞納税の徴収」。
基本的に税金は、期限内に納税する人が大半である。
しかし、期限内に収めようとしない不届きな住民も一定数存在する。
税務署や自治体の税部門では、そんな住民に未納を知らせたり、差押を強行したりして税金を徴収する業務がある。
当然、憎まれたり恨まれる立場になるため、心地よく仕事ができるものではない。
納税するのを忘れていただけの住民ならまだましだが、確信犯的に納税しない手ごわい住民もいる。
これは、もう病気クラスの煩わしさだ。
今回の記事では、そんな公務員の税金徴収の仕事のツラさを語るだけではない。
税金納付を軽んじる滞納者に対して、かなり刺激的な内容となっている。
そして後半では、全国で頭を抱える徴収担当の方に、明日からの業務で役立つ知識やコツをお伝えする。
クレーマー係として対人スキルを学ぶ
私は、公務員時代にクレーマー対応係を何度も経験した。
その際、クレーム対応本を読み漁り、現場で実践することで対応スキルを相当に高めた。
公立病院では、モンスター患者だけでなく、高度な医療事故対応までさせられた。
鍛え上げられたスキルは、税金の徴収業務の2年間でも十分に通用し、所属でも目覚ましい徴収成果を上げることになった。
今回は一部有料記事として、私が10年以上蓄積したこのノウハウを限定提供させてもらう。
税金の徴収担当になって壁にぶち当たっている方は、ぜひ参考にしてもらいたい。
神懸かっていた徴税員の時代
私は徴税員の頃は、子どもの育児で変則的な時間勤務をしつつも、公務員という職業に愛想を尽かした。
そのため翌年の退職・独立の意向を固め、独立の準備のために最後の1年間で50日以上の有給休暇を取得していた。
余裕で「週休3日制」か「週休3.5日制」くらいの出勤だった。
そんな絶対的に時間が少ない中で、徴収業務が効率的に行なえるように業務スタイルがシェイプアップされていった。
過去に花形部署に在籍していたことから、範囲を超えてやっかいな案件も匿名で押し付けられた。
しかしこの徴税員時代は、そんなやっかいな案件もだいたい完納になった。
自らでも不思議な神懸かった数年間だったが、少なくともこれから話すポイントを試行錯誤して試したことが関係しているからだと強く信じている。
公務員を退職した私のこと(プロフィール)
田舎の県で地方公務員として、約15年間勤務する。
前職の経歴と風貌から、税金の徴収係などハードな部署に回され続ける。
第二子誕生の際、当時の男性では珍しい1年間の育休を取得。
長年こびりついている悪質滞納の徴収を、なぜか理不尽にも任せられた。
徴収業務の2年間で目覚ましい成果を上げたことで専門コースを打診されるが固辞。
育児をこなしながら今後の人生を真剣に考えた結果、公務員を退職して独立。
引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、ブロガーとして歩み始める。
困った滞納者
私が仕事で接した滞納者は、「自動車税」の絡みが多かった。
中には本当に生活が苦しい中でも、毎月少しずつでも納付しようとする方もいて感心したものだ。
しかし、納税などなんとも思わず毎年滞納を繰り返す悪質滞納者や、自動車税のことを全く理解できない滞納者もいた。
そんな困った滞納者を説明する。
自動車税
自動車税といってもなじみが深いのは、自動車税「種別割」、
他には自動車税「環境割」というのもある。
普通自動車の自動車税は、基本的に都道府県の管轄で大きな収入ともなる。
おそらく財務省や国税庁の計らいで、地方の財政が安定するよ細分化して徴収させているのだろう。
排気量によって税金額が決まり、製造から一定の期間を超えると重加算もされる。
4月1日時点の自動車所有者に課され、5月末までに支払うものだ。
自動車税は、車を廃車・抹消しない限り、毎年課税される。
滞納者には、延滞金も含め滞納額がどんどん膨らんでいく厄介な代物だ。
この自動車税は、紛れもなく「車を所有するコスト」と言えるだろう。
高排気量の激安車を平気で買う
中古・廃車寸前のレクサスを購入し、自動車重量税も加算されて10万円近くの自動車税。
会社はリストラされて、分割納付を希望
中古車業者さんも教えてあげた方が親切なのでは?
軽自動車ならば、毎年10,800円の自動車税となるのに。
事前相談による分割納付
法律上では税金の納付に、「分割払い」という便利な制度はない。
クレジットや通販などで「手数料なし、分割払いがお得」などと謳うので、一般消費者にはその方法がしっかり浸透している。
しかし実際の税務の現場では、分割納付が認められている。
これは分割でもしないと納税できない方たちのために、現場の「運用」で分割に応じているのだ。
特にゴールデンウィーク明けに納税通知書が発出されると、分割納付の相談が一斉に始まる。
4、5万円の自動車税を2~3か月間に分割して、支払うのだ。
分割しても延滞金は加算されるが、本体の本税が毎月減っていくので延滞金の加算はやや抑えられるのもメリットだ。
ほんとは期限内の一括納付が、社会全体に最もメリットがあるのは忘れてはならない。
分割納付の手間
分割納付の相談は、電話・面談のどちらか。
生活がいかに苦しいかを聞き出すため、家賃、食費、学費、家族構成など生活事情を確認していく。
その後、正規の納税通知書を分割用の納付書に発行しなおしてと、とにかく手間がかかる!
そこに言語が通じない!などという問題もあると、なおさら大変だ。
自動車税については毎年同時期に、決まった額が課税されるので、納付用にお金を残しておけばよいのに!と何度も思ってしまう。
顔の見慣れた住民が、悪びれず毎年の分割相談に来るのもイラっとしてしまう。
最もイヤなのは、多くの住民は「分割納付を権利だと思っている」こと。
自治体側としては、スムーズな納税のため特例として認めているだけだ。
と言っても、相談に来る住民はまだ良識派だ。
社会には、この相談にも来ずほったらかしや悪質な方がいる。
それがいよいよ滞納者となるのだ。
個人事業税
個人事業税とは、「個人で事業」を営んでいる方に納税義務が発生するものだ。
たいていは8月と11月の2期に分けて課税・納付するものだ。
自治体の実務としては、基本的に国税の税務署が課税する所得税に付随して、コバンザメのように都道府県が課税するものだ。
公務員を退職する間際だったからか、「所得税」も払って「個人事業税」も払うのは、腑に落ちなかった。
運転資金に回す滞納者
個人事業税は主に1月1日~12月31日の期間の収支を決算し、その利益額から申告するもの。
しかしその課税が8月・11月になるので、その納税分を残しておかない不届き者も多い。
納税分も運転資金に入れ込んでしまっているのだ。
このような方は、個人事業主としての自覚が足りないと言える。
従業員と思っていたら
個人事業税については、聞いていて哀れな話もある。
ずっと従業員として勤務しているつもりだったが、ゲス社長のたくらみで単なる「業務委託」扱いだったらしく、個人事業税が課税されたというものだ。
その方は、長年無申告でいたが、国税の税務署が5年さかのぼりで数百万円の課税をしたのだ。
そこに地方自治体も、もれなく個人事業税や市民税の追随課税するのだ。
自らの業務形態を確認することは、とても大事なのだ。
不動産取得税
この不動産取得税は、土地や建物を取得した際に発生する1回きりの課税。
よく混同されるのは、「固定資産税」。
これは土地を諸州していたら、毎年課税されるものだ。
マイホームを購入しても、税金は後回し
マイホーム購入のために必死にお金を集めたり、ローンを組んだりするが、ここに数十万円の不動産取得税がかかってくるという余計なものだ。
住民としてはそもそも購入時に消費税を払っているのだから、2重課税ではないかと思ってしまう。
ここで腹立たしいのは、住宅ローンの支払いは必死に頑張るのに、不動産取得税は後回しの滞納者。
確かに住宅ローンを組む際には、自宅の登記が担保にされるので支払いのプレッシャーはある。
そして返済が滞ると、済んでいるマイホームがローン提携先の銀行に差押され競売にかけられるのだ。
しかし自治体などの行政は、裁判の決定を経ずに法律上差押ができるのだ。
具体的には、銀行口座の現金を即座に差押し納税に充てるというものだ。
「自治体だから待っていてくれる」と甘く見ていると、手痛いダメージを負うことになる。
天下の愚策 コロナ特例猶予制度
コロナウイルスによってもたらされた経済の停滞。
その影響を受けた法人や個人が、納税を一定期間猶予してもらえる「コロナ特例制度」。
政治家や為政者には住民ウケの良い施策だが、現場の職員にとにかく評判が悪かった。
全国的な呼び名は、「ゾンビ施策」。
特に法人業者に多かったが、不景気で立ち直れない組織を「延命」させているだけ。
たしかに、この年の倒産件数は少なかったので、内閣や為政者は評価されるのだろう。
たいてい翌年度以降に倒産が後ろ倒しされているだけだが。
「猶予」は免除ではない
猶予してもらった住民は、納税の期限が延びていったんは安堵する。
しかし「猶予」は納税が免除されるわけではない。
利子扱いの「延滞金」はかからないが、1年後にはその支払いが迫ってくる。
そして翌年度分の税金と併せて2か年分支払うことになる。
猶予で延長した期限を守れない
ここで当然の流れだが、猶予期限が到来した滞納物は、なかなか期限通りに納税できない。
当の本人は、期限を忘れているものが多く、催促してから慌てるばかりだ。
国の人気取り恩情政策により、ゾンビが誕生する瞬間だ。
特例猶予に思うこと
コロナなどの予期せぬ事態で不景気になるたび、発出される「特例猶予」。
これで生き延びて事業を盛り返す業者が一定数いることも事実だろう(あまり知らないが)。
しかしこれは社会の業態変化でもあるので、旧態依然の業種を延命させているという批判もある。
自動車の登場によって馬車がなくなったように、時代の移り替わりと生活様式の変化によって消えていく業種もかならず存在する。
それらを税金優遇で軽々しく延命するのは、新しい産業の出現を阻むことかもしれない。
発出政府に、そこまで根本的なことを考えられる余裕もないか。
これで納付率アップ!悪質滞納者への対応ポイント
ここからは日々徴収の現場でご苦労されている方や、悪質滞納者にお悩みの徴収担当の方に向けて、現場で役立つスキルをお伝えする。
今日から実践できるものばかりなので、助けになれば幸いである。
ポイント1:しっかりした「あいさつ」
最初のスキルとしてあげられるのは、「あいさつ」。
職場に登庁して最初に同僚に行なうが、これを満足にできない職員が多い。
はっきり言って私のいた徴収担当は、「自治体のはきだめ部署」。
それなりの職員が、いきつき先である。
しかし、そんな徴収担当は勤務時間の自由裁量が大きく、子育て中の多忙で優秀な職員が回されることがある。
(私自身もこちらだと育児変則勤務をしていたことから、こちらの職員であったはずだ)
そのような優秀な職員とは、目を見て朝の挨拶「おはようございます」を笑顔でしっかり交わす。
これによって日々の信頼関係が深まり、優秀な職員とコツやノウハウを交換できるのだ。
滞納者への先制あいさつ
当然ながら滞納者は、徴収担当を敵であったり疎ましく思っている。
だからこそ先制パンチのあいさつが、とても有効なのだ。
常習的または悪質な滞納者は、社会的なつながりが薄い。
満足にあいさつを交わしたこともないだろう。
基本的に大事に扱われたことがないのである。
だからこそ、初対面のあいさつが何よりも重要になる。
電話で話す際も、同様にかなり有効になる。
ポイント2:話を聞いてあげる
私は公務員業界で使う「傾聴」が大嫌いだ。
「傾聴=耳を傾けて聴く」というキレイな言葉が、さも公務員という感じがして受け入れられない。
そもそも、クレーマー住民や悪質滞納者の言うことに、聞く耳など持ちたくない。
しかしながら「話を聞いてあげること」は、滞納者も「人として認められた」と自認する大事な行為。
ポイント3:催告書を有効活用
たいていの税金は、期限内に納付されないと「督促状」が発送され、未納者→滞納者扱いとなる。
分かりやすい自動車税(種別割)では、毎年ゴールデンウィーク明けに納税通知書が発出され、その期限は5月末日が多い。
そして6月中には、滞納者のもとに「督促状」が発送される。
そしてこの督促状には、発布日から10日の期限が定められている。
それでも納付しない滞納者に対しては、「催告書」を送付できるようになる。
育児の変則勤務などで時間がない私は、この催告書をフル活用し自主納付を促してきた。
差押にはけっこうな準備が必要
地方税法331条1項では、「督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の財産を差し押えなければならない」とあることから、徴税員は6月下旬には差押の準備に取り掛かる。
準備といっても、具体的に滞納者が使っているであろう銀行に対して、口座残高の照会を行なうのだ。
自動車税に関しては、滞納者の数は想像以上に膨大。
1人に対して複数の銀行に照会するので、その件数や文書量もとんでもない数。
回答する銀行も、調べて返信文書を作成するのに時間がかかる。
次に、銀行が回答した文書の銀行残高から、滞納者の給料日などを読み取り、その日に差押できるように所属で決裁文書を作成する。
このような長いやり取りには数週間~数か月を費やすので、この手間の傍らで「催告書」を活用するのだ。
催告書の工夫
催告書は、単なる行政文書に非ず。
工夫次第で納税を効果的に促すことができる。
- 色ペン 期限など目立たせたい箇所をマーカーで強調する
- 宛名をマジック書き ボールペンの細い字では視認しにくいので、マジック書き
- 角2の大封筒で送付 小封筒では滞納者宅でほかの郵便物に混じってしまう。
- あえて納付書だけ 何度も催告した相手には納付書のみ送付する。外国人相手にも有効。
- 注記を入れる 「この期限で延滞金が増額になる」「自宅に伺う」などの効果的な注記で、滞納者に心理的プレッシャーをかける。
コラム 大事なのは「差押件数」?
私がコツとしてお伝えする「催告書」による納付では、納付の扱いは滞納者の「自主納付」になる。
期限内ではないにしろ、各自治体が気にする「納付率」は上がることになる。
しかし、税部門で重要視されているのは、徴税員同士で比較しやすい「差押件数」。
納付率では、社会情勢や地域柄などの要素によっても上下するからだ。
差押件数を重要視する問題点
徴収の本部は、年間の差押件数の目標値を設定し、それをクリアするようにお達しを出す。
これはそこそこ頑張れば、用意にクリアできる数字ではある。
私の最終年では、脅威の50日くらいの有給休暇を消化しながら、目標値の1.5倍の数値を出した。
徴税部門ではいろんな職員が「流れ着く」先のため。この数値をクリアできない残念な職員も一定数存在する。
徴税員を競争させる安易な指標「差押件数」
驚くべきなのは、血眼になって差押件数を伸ばそうとする徴税員だ。
どんな些細で少額でも、差押すれば「1件」プラスされる。
説明・説得すれば納税しそうな滞納者も、有無を言わず差押。
組織評価で納付率は問題とならないので、安易な差押ばかり行なって件数を伸ばすのだ。
そして差押できない滞納者や手続きが面倒な不動産の差押えについては、適当に催告状だけ発出してやり過ごし、翌年の後任に丸投げするのだ。
こうやって差押件数ばかり追っていると、手間さえかければ徴収できる案件がこげつき、回収できない「不納欠損」と至るのだ。
自動車登録の差押
差押件数を押し上げるのは、この「車両差押」の貢献も大きい。
都道府県のメイン税の一つは「自動車税」のため、自動車を所有していることになる。
銀行口座の残高がスッカラカンでも、自動車が本人所有であればその「自動車登録」を差押できる。
(ローン中は本人所有ではなく、クレジット会社の所有のため差押不可)
自動車登録を差押すれば、いわゆる「タイヤロック」ができるのだ。
ごくたまに、タイヤロックに加えフロントガラスに文書を貼り付けられる「さらし首」状態だ。
自動車登録を差押された滞納者はタイヤロックを恐れ、急いで納税するという流れだ。
自動車登録差押の弊害
この自動車登録の差押えは銀行口座差押と異なり、とても手間がかかるものだ。
この差押は、自動車登録業務を主管する国土交通省 各運輸支局に依頼することになる。
これは国家公務員が働く国の機関で、各都道府県に存在する。
主に車検業務を担っているため日頃から多忙そうだ。
そして自動車税の滞納が確定する7,8月ごろから、この自動車登録の差押えでさらに忙しくなる。
繁忙期には差押結果を反映するのに、3週間はかかることもある。
この間に、滞納者宅を訪問するなり、催告状で自主納付を促せばよいのだが、差押件数を稼ぎたいばかりにこの差押が横行している。
これに付き合わされる運輸支局の大変だ。
差押しても滞納が続くと面倒
自動車登録を差押しても、その車をすぐに換金して滞納分に充当はできない。
タイヤロックした車両はレッカー車で引き揚げ、一旦公舎で保管する。
そして公売(競売)にかけるのだが、ここまでの準備がとても大変。
しかし滞納者の所有する車は、市場価値が付かないものが多く、買い手が付く可能性も低い。
公売で運良く落札されても、そこから車の不具合を指摘し難癖をつけてくる輩も存在する。
差押のポイントとしてはどんなボロ車でも、滞納者が日常生活に使っていることがポイント。
早朝にタイヤロックし仕事に行けなくして払わざるを得なくするなど、滞納者の生活に対応して判断する必要がある。
最悪なのは、ただ車庫に眠っているだけの乗っていない車の登録を差押することだ。
滞納者によっては、「レッカーで持ってごみを持って行ってくれてありがたい」というメリットまで与えかねない。
差押解除は容易ではない
「自動車登録を差押した車がぼろかったら、差押を解除してはどうか?」
と思われる方もいるかもしれない。
しかし差押は行政による不利益行為、簡単に解除できるものではない。
それなりの理由や根拠を持って滞納者の利益を害しているので、解除には同等の理由が求められるのだ。
具体的には滞納者の自宅などに出向き、実際の車を確認する。
そして「劣化がひどく公売にかけても費用がかかるだけ」など、客観的な説明が必要となる。
自動車登録の差押えは定型的な対応で進められるが、解除となると滞納者の実状をより詳しく調べる必要が出てくるのだ。
ポイント4:滞納者との折衝
ここで最後のポイント。
滞納者との実際の面談である。
専門用語では「折衝(せっしょう)」と呼ぶ。
最初の納税相談も実際はこの「折衝」なのだが、私は敢えて使い分けていた。
「折衝」の意味
折衝は、相手の突き出してきた矛(ほこ)の先を折るというものだ。
具体的には、相手の屁理屈の矛盾を突き納税に向かわせるもの、と理解している。
そのため「面談」のように、相手の意見を傾聴するものでもない。
また「協議」のようにお互いの妥協点を探っていくのものでもない。
折衝のポイント
折衝のポイントは、相手の矛盾点を探って指摘すること。
そのため形ばかりの傾聴を行なう面談よりも、集中力が求められる。
悪質滞納者は、身の上話に出まかせが多いので、冷静に聞いていると矛盾点が結構見つかる。
そして、折衝の際は数的優位を作る。
上司や同僚に同席してもらい役割分担することで、自らの思考時間を確実に確保するのだ。
折衝には手当がある
わが県では、滞納者との折衝を行なうと特別手当が支給されていた。
1回800円ほどで1日に1回限りだが、これは徴税員の業務が心理的圧迫を受けるゆえの配慮だろう。
たしかにやっかいな相手が来所すると、800円ではやっていられないような気持になる。
折衝案件を上手くスケジューリングすれば、月に約800円×20日=16,000円の収入となる。
とうぜん、税金原資の人件費として計上される。
また銀行口座の差押時に、銀行に臨店すると同様の手当が支給される。
これで小銭を稼ぐ徴税員も存在する。
このように滞納者の滞納は自身の問題だけに留まらず、ほかにも多大な行政コストがかかっているのか理解してもらいたい。
コラム2 僅差のランキング順位で喜ぶ各自治体
都道府県の徴税部門では、年末の風物詩がある。
それは全都道府県の自動車税の納付率ランキングだ。
一般社団法人 地方行財政調査会が『都道府県税決算見込額調べ』として、全都道府県分の自動車税納付率を公表するのだ。
たいていの都道府県が、80%後半から90%の納付率でしのぎを削っている。
昨年より順位や納付率が上がっていれば本部の担当としては、万々歳だ。
「しっかり仕事をしている」と全国的なお墨付きをもらいたいためか、この数値の上昇に躍起になる職員も存在する。
これについては自主納付か差押かは問わないので、性質的には健全なものかもしれない。
しかし、この車離れが進む国内において、自動車税で競わされている公務員も何だかあほらしい。
ポイント5 vs 「土地ころがし」の滞納者
最後のポイントとなるが、不動産に関してはけっこう大型な悪質滞納者が出現する。
いわゆる「土地ころがし」のようなことをしている方たちだ。
開発計画の関係で売れそうな土地を安く仕入れていたり、借金のカタで手に入れたりして、各地にさまざまな土地を有している。
そしてめぼしい土地は整地して、高値で売りに出すのだ。
売買の度に不動産取得税、所有しているだけで固定資産税がかかってくるので、納税が遅れたり開き直って悪質滞納者に変貌する。
不動産の差押え
たくさんの不動産を所有するものは、追い詰めるのがなかなか難しい。
銀行口座の差押えができれば手っ取り早いが、手持ち資金は不動産に換えられているのでまとまった額はない。
土地などの開発資金は銀行から融資を受けるので、これも手出しできない。
そんな際には、対象者の「固定資産台帳」を公的に入手し、ざっと目を通す。
そして、目ぼしい「宅地」は現地確認を行なうのだ。
農地や山林は、買い手が付きにくいし、農業委員会の許可が必要なので避ける。
宅地で気になったところは、すぐさま現地確認。
急所を抑える
現地確認が必要な理由は、現場に行くと「開発・整備されているかどうか」が分かるためだ。
開発中や完了していたら、まずは急いで不動産登記を入手。
その後、速やかに不動産差押を行なう。
なぜならその土地は、売却のメドが立っているからだ。
もう既に買い手がついているのならば、なおさらラッキーだ。
その滞納者も、差押された土地を買い手に押し付けることはできない。
かといって売却が流れれば、一から買い手を探すはめになり、業界内での信用も揺らぐ。
きっと銀行から借りてでも、納税しに来るに違いない。
まとめ
今まで述べてきたポイントは、私が実業務を効率的にこなす中から形成されていったものだ。
これを最後まで読んでいただいた読者さんの職場でも、特有の環境やシステムがあるはずだ。
そんな環境の違いをあげつらい、「〇〇が異なるから、私には無理」などと公務員特有の’できない理由’に逃げないで欲しい。
税金徴収の法律や業務は、日本国内ならば同一のはず。
それならば「ココはきっと私の業務に応用できるはず」などと、前向きに役立ててほしい。
徴収業務は9割方は嫌われ仕事で、毎日イヤになることばかりだ。
しかし、大型の差押えが決まり完納になると、とてもスカッとする!
日々退屈な公務員業務の中では、スリルと達成感を味わえる珍しい部署だ。
あなたの健闘を祈る。
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