公立病院とは、クレームが集まって当然の職場
私は公務員を退職した。
私が暮らす田舎では、銀行員か公務員になるくらいしか、地元での働き口がない。
現在では銀行員の魅力が下がりつつあるが、公務員にはまだ一定の人気があるだろう。
ひと昔前に公務員試験をパスした私は順調に勤務していたが、そのうっ憤は募る一方。
なぜなら、公務員として働く環境が良いものではなかったからだ。
その中でも特に公立病院での勤務は、心身ともに支障をきたす最低の数年間だった。
私立病院との決定的な違い
読者のみなさんが思い浮かべる「病院」は、たいてい「私立」病院だろう。
町を見渡すと大小いろんな病院・クリニックがあり、「○○会」などいろんな系列がある。
一方、「公立」病院というと田舎の県では2、3か所しかなく、中核的な市町村に1か所あるかないかくらいだ。
私立病院がない地域で、公的サービスの観点から自治体が設立した経緯が主流だ。
また私立病院では採算が取れない、特殊な病気や症例に特化する公立病院も存在する。
公立病院と私立病院との大きな違いは、公立病院が自治体の税金で運営されていること。
公立病院でも経営がうまくいけば、もちろん診療報酬で黒字を出すことができる。
しかし、うまくいく病院はかなり少ない。
そして何より、公立病院の構造=地方自治体+病院
地方自治体と病院分のクレームが、必然的に集まるのだ。
まさに、クレームのはきだめ。
クレーマーからよく聞くセリフは、「税金で運営してるくせに」。
今回の実話クレーム集は、公務員に興味の無い方も「笑える小噺」として楽しめる。
そして、「公務員になりたい!」という学生の方々は、心して読んでもらいたい。
これを読んでも、公務員になりたいと言い続けられるだろうか。
公務員を退職した私のこと(プロフィール)
田舎の県で地方公務員として、約15年間勤務する。
前職の経歴と風貌から、公立病院のクレーム係などハードな部署に回され続ける。
第二子誕生の際、当時の男性では珍しい1年間の育休を取得。
育児をこなしながらも、今後の人生を真剣に考え公務員を退職して独立。
引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、ブロガーとして歩み始める。
・もっと知りたい方 → 私のプロフィールへ(内部リンク)
公立病院の実態
公立病院は、主に私立病院では担わない難病や地域において、公的サービスの観点から設立されることが多い。
運営は地方自治体が担い、その事務員や看護師はもちろん「公務員」となる。
院長については、その地方の有力大学の医局がお決めになるので、自治体が口出しできない。
しかし経営センスはまるでなく、赤字が出ても税金で補填されるので、一般的に公立病院の経営は赤字が多い。
地方独立行政法人化が進む
公立病院は2000年ころから行政改革の一環として、「地方独立行政法人〇〇病院」などと肩書きを変えているところが多い。
それは一定の要件を満たし、厚生労働省から認可をもらえた「優良」とされる病院だ。
それでも「経営補助」の名目で、自治体の税金は投入されている。
看護師は独自に雇用するが、事務員はもとの自治体から「出向」扱いで受け入れることが多い。
近隣住民からすると、建物もスタッフも変わらないのだから、「公立病院」という意識はまるで変わらない。
独法化した公立病院の悪魔の構造
私は不運にも、この独立行政法人化された公立病院に異動出向となった。
本庁の激務に疲れ、比較的自宅に近い勤務先を探していたので、通勤先としては希望通りだった。
しかし業務内容を体感すると、「こんなとこ来なけりゃよかった」と激しく後悔した。
担当部署はクレーム係
私が出向した公立病院では、出向してきた職員をクレーム対応の最前線でこき使いつづけていた。
精神的にきついので、だいたい3年で異動となるが、その間はしっかりこき使われた。
一般的に大きな病院には、ろくでもない医師や医療スタッフが一定数存在する。
そのため、それを指摘するまっとうなクレームや、改善に役立つ意見もあった。
しかしながら、それはあくまでごく一部。
たいていは、クレーマーによる独りよがりであほな内容のクレームばかりだった。
実際のあほクレーム
これから「公立病院に対するあほクレーム」を挙げていく。
その形態は、実際の窓口、電話、担当不在時の伝言などと多岐にわたる。
これからは、クレームを「要求」と定義し、クレーム係に寄せられた要求内容を紹介する。
本来はクレーム係が対応する案件ではないのに、病院の困りごとがなんでも押し付けられた記憶がある。
クレームの順番は、柔らかいものからよりハードになるように並べた。
クレーム1 「医師の対応が悪い」
「担当の先生が、PC画面ばかり見て話し、患者の方を全く見ない」
患者からけっこう聞かされるクレームだ。
実際に病院を受診して感じられた方も多いだろう。
たしかに電子カルテが導入されてから、患者を横目にPC画面と「にらめっこ」している医師が増えた。
治療を受けに来た患者が、不満を抱くのも当然の話だ。
しかし、ほとんどの患者は医師との関係悪化を恐れ、医師には直接言わない。
だから会計時に、気の弱そうな女性事務員にうっ憤を晴らすことが多い。
会計窓口で不満を並べ立てても、当の医師まではなかなか伝わりにくい。
あまりに長引くようだと、クレーム係が対応を替わることが多かった。
ひととおり話を聞くと、患者は満足した様子で帰っていく。
病院スタッフにブチ切れ
入院中の患者が「病棟の看護師が話を全然聞いてくれない」として、ナースステーション前で椅子を振り上げているとのヘルプクレームがあった。
椅子を振り上げたのは、高齢男性の入院患者で末期がん。
入院中に寂しさもあり、看護師に話を聞いて欲しかったそう。
しかし、看護師を始めとする病院スタッフも毎日大忙しで、この患者とうまく関係が築けなかった。
これが入院看護ケアの難しいところ。
こういう患者のために、院内に心理士を配置しているところもある。
クレーム2 「近隣住民だから、ワクチンを融通しろ」
主にインフルエンザが流行りだす冬に多いクレーム。
近隣住民は、「救急外来の救急車の騒音などを我慢しているので、ワクチンを融通せよ」というのだ。
気持ちは分からないでもない。
しかし私立病院ならばともかく、公立病院にそのような優遇を期待することがナンセンスだ。
クレーム3 「薬や治療の効果がないから、返金しろ」
勘違い患者に多いクレームがこれ、私立病院でも遭遇するかもしれない。
ただ、病院というのは「成果主義」ではない。
検査や薬の処方にコストがかかるのだから、その分の費用は当然必要。
検査しても病気の原因が分からないケースでは、患者に気の毒だが、それでも検査費用は必要となる。
「病院で検査すれば、原因が必ずわかる」
「病院で治療すれば、必ず治る」
という幻想は、患者の想像性が欠如しているとしか言えない。
外国人患者の増加による新出クレーム
来日外国人や在日外国人によると、「日本の医療は世界一なので、必ず治る」との思い込みが強い。
息子に夜間の救急外来を受診させた、外国人女性。
受診の翌日に、クレームのため再度来院。
「もらった薬を飲ませても、ちっとも良くならない!金返せ!」
そんな一晩で快癒しないだろうし、夜間の救外でけっこうな出費になったのか。
クレーム係の私から事情を説明すると、「もういい!」と診察券を叩きつけて帰っていった。
クレーム4 児童虐待通報に逆(さか)恨み
幼児などの子どものケガで来院すると、まずは保護者による虐待を疑う。
特に顔・頭部・性器近くのケガは、問答無用で児童相談所に通報することになる。
「通報」といっても、その保護者がすぐに逮捕されるわけではない。
児童相談所は、まさに「相談」するところなので、いろんなサポートメニューがある。
しかし、保護者に「児相通報」の件を伝えると(この瞬間が最も緊張する)、激高する親も存在する。
児童相談所の悪いイメージによるものか、つつかれると痛いところがあるのか。
児童相談所のサポートメニューを丁寧に説明しても、全く納得しない。
今回激高した父親は、「児相への通報は気をつけろ。病院スタッフが刺されることになるぞ」と脅してきた。(この発言も、児相・警察と共有済み)
このバカ親、絶対やってるな。
クレーム5 高齢ドライバーの運転
次のクレームは、1階の病院スタッフからのヘルプ。
80歳代の男性患者が、病院の正面玄関まで車で乗りあげてきた。
幸い高齢者の車は、玄関ドアの10cm前で停車。
玄関前のロータリーを見誤って、玄関まで侵入したらしい。
少し間違えれば、全国を騒がす「高齢有害ドライバー」のニュースになるところだった。
ロータリーから玄関ドアまで、車で通れる構造もおかしいのだが。
病院の駐車場は要注意!
全国的に大きなニュースとなる、高齢ドライバーによる建物に突っ込む事故。
私が勤務する病院でも、「歩道乗り上げ」や「駐車場の自動開閉バー破壊」などが、毎月発生していた。
命が惜しいならば、病院の駐車場で長居せず、用が済んだら早々と立ち去ることをお勧めする。
また駐車する場所も、少し離れてスペースに余裕のあるところが望ましい。
クレーム6 窓から飛び降りようとする
病院で長期治療したり入院していたりすると、気が滅入る患者が多い。
今回は、「6階の部屋から患者が飛び降りようとしている!」とのヘルプクレームだ。
病気が治らない男性患者がヤケを起こし、病院で投身自殺を図ろうとしたのだ。
病院スタッフの説得により、この男性は思いとどまった。
しかし「病院の窓が簡単に開くことが問題」として、クレーム係がすべての窓にストッパーをつけて回るハメになった。
比較的新しい病院だと、窓は少ししか開かないような設計が主流だ。
クレーム7 10年前の薬が「飲めるかどうか」深夜に電話
クレーム係不在の深夜帯に、救急外来に電話。
けっこう常連のクレーマー男性。
「10年前に処方された薬が、まだ飲めるかどうか知りたい」とのこと。
対応したスタッフも困惑したが、しつこい質問にいら立ち喧嘩別れ。
しかしこのクレーマーは「電話対応が悪い!」として、設立元の自治体にまでクレームを付ける。
先の深夜の電話は、「揚げ足取り」の目的だったようだ。
この対応でクレーム係は、1か月ほどの期間を費やすこととなった。
自治体の担当者がバカ真面目に対応して、「あしらう」ことができなかったことも関係する。
クレーム8 深夜の救急外来で暴れる
深夜の救急外来を受診した男患者が、「会計が遅い」としてドアを蹴りつける。
病院が警察通報し、この患者は警察官からも諭されることになった。
しかし、深夜の救急外来はこのような迷惑行為と隣り合わせ。
一部の不届きな患者により、大事な医療資源を消耗している状況だ。
クレーム9 電話で入院情報を聞き出そうとする
ひと昔前までは、病院に電話をかけて「家族」と言えば、患者の入院有無を教えてくれた。
しかし個人情報保護法の施行により、そのような対応は軒並みなくなった。
私が勤務していた病院でも、「そのような患者様が、みえるかどうかさえもお答えできません」と決まり文句のように回答していた。
通常、電話交換のオペレーターの対応で終わり、クレーム扱いにはならない。
しかし、それでは納得いかない輩は、しつこく乱暴な口調で喰い下がってくる。
そのような輩が、クレーム対応係に電話転送されるのだ。
中には家族や友人の安否を確かめたくて、電話してくる方もいるのだろう。
一方、借金取りなどが居場所を突き止めるという見方もできる。
しかし電話の受け手としては、それらを確かめる術がないので対応に困るのだ。
「俺は親友だから!」
ある日、こんなクレームが転送されてきた。
「俺の親友が入院しているはず。見舞いに行きたいのだが、電話受付で何も教えてくれない!」
かなり口調は荒めで、ヤクザのような印象だ。
こちらも「そもそも親友ならば、本人や家族などを通じて調べろ」と言いたくなる。
とりあえず「そのような方が入院しているかどうか分かりませんが、もしみえたらあなたに連絡するようにお伝えする」と、いつも対応していた。
そもそも「親友」のはずなのに、そのような情報が伝わっていない。
そんな滑稽な図式が頭のなかによぎり、対応係として内心嘲笑していた。
「電話口で怒鳴ればどうにかなる」と勘違いする輩たち
この電話対応で多いのは、とにかく電話口で怒鳴る輩たち。
最初から「無理だ!」と断っているのに、怒鳴ればまげてもらえると勘違いしている。
はっきり言って「脅迫」です。
「電話ではだれにも聞かれない」とでも思っているのか。
今のたいていの病院では、このような輩に対応するために電話に録音機能が付いている。
ボタンひとつで、すぐに録音開始できる便利なものだ。
それとも、このような輩は「怒鳴ればなんとかなる」野蛮な世界で生きているのか。
そんな輩に付き合わされる病院職員や公務員も、たまったものではない。
このような輩が早くいなくなれば良いのに。
報われないクレーム係
はっきり言って、病院のクレーム係は報われない。
月給100万円の医師の不始末を、薄給の公務員が処理している構図を考えると泣きたくなってくる。
そんな業務が続く中で、「患者のイライラを減少させるにはどうすべきか」を考えていた。
院内のBGMを打診
東京の聖路加病院を訪れた際に、答えのひとつにたどり着いた。
その病院ではロビーに素敵なクラシック音楽が流れていて、全体として優雅な空間となっていた。
このような場所で、大声を張り上げてクレームを言おうものなら「場違い」感でとても恥ずかしい。
世話しなく殺伐としつつある病院スタッフの心も静めてくれるのだろう。
職場に戻った私は、業務改善の一環として「院内BGMの導入」を提案。
しかし、理由も分からないまま却下。
お堅い公務員の組織文化というものか。
10年近く経っても、未だに院内BGMは導入されていない。
「捨て駒&消耗品」のクレーム係の提案など、通るハズがないのだ。
まとめ 公立病院とは、外から見ると面白い組織
思い出したクレームを挙げてきたが、イヤな思い出ばかりが蘇ってきた。
クレーム係として前線で対応するのもイヤだったが、スタッフからヘルプで呼び出されることさえもイヤだった。
クレーム係がしっかりし過ぎていると、なんでもかんでも「クレーム係を呼べば解決してくれる!」とスタッフに甘えが出てしまう。
そもそも私も公務員の「出向職員」。
外様の身分で、なぜここまではきだめの汚れ仕事をさせられるのか、理不尽に感じていた。
クレーム係は生え抜きのプロパー職員を配置して、病院にしっかりフィードバックさせるポジション。
しかし、いまだに公立病院では出向してきた公務員を、数年間こき使う構造が続く。
若くて優秀な職員が出向してきても、これでは幻滅するに違いない。
そして、可能性があるうちにほかの明るい世界に羽ばたいていく。
はぁー、これは公務員を辞めたくなるわ。
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