静岡県知事選挙の引きがね!「シンクタンク発言」に隠された危うい話法とは?

「県庁はシンクタンク」発言

「県庁はシンクタンク(政策研究機関)だ。毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」

静岡県の川勝知事が、新規採用職員を前に訓示で発した言葉で、いわゆる「シンクタンク発言」だ。

この発言後の記者会見上で、川勝氏は4期目の任期満了前に知事職を辞職することを発表。

2024年5月中には、次の新しい知事が選出される予定だ。

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発言の何が問題だったのか?

 元行政マンの私が思うに、この「シンクタンク発言」は適切でもあり不適切でもある。

県庁組織には地方行政庁としての「施策の企画・立案」部門があるので、その意味では適切だ。

県庁の「企画力」を高めて、良い施策を打ち出して欲しいという期待を込めての言葉だったのだろう。

しかし大きな問題は、小兵が使いがちな「比較話法を安易に使ってしまった点だ。

 世間では「職業差別だ!」との感情論が渦巻いているが、そこは大手マスメディアに任せておく。

問題は知事だった川勝氏(4期目)が、住民心理を理解していなかったことに尽きるのだ。

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地方行政のことを語る私のこと(プロフィール)

 田舎で地方公務員として約15年間勤務するも、経歴と風貌からハード部署に回され続ける。

第2子誕生の際、当時の男性では珍しい1年間の育休を取得

育児をこなしながらも、今後の人生を真剣に考え公務員を退職して独立

川勝知事の言葉を借りると、知性の高い人から低い人になった訳だ(笑)

育児にかこつけて、公務員の最終年度に「有給消化46日」という伝説的記録を叩き出す。

あれだけ休んで業務ノルマを達成したイクメン」として、同僚から注目を集める。

 引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、百姓(なんでも個人事業主)として精進中

・もっと知りたい方 → 私のプロフィールへ(内部リンク)

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前静岡県知事の経歴

 以下は、静岡県庁のホームページより抜粋した川勝知事の経歴だ。

昭和47年3月 学士(早稲田大学第一政治経済学部経済学科)

昭和50年3月 修士(早稲田大学大学院経済学研究科)

昭和60年10月 D.Phil.(オックスフォード大学)

平成2年4月 早稲田大学政治経済学部教授

平成10年4月 国際日本文化研究センター教授

平成19年4月 学校法人静岡文化芸術大学学長

平成21年7月~ 静岡県知事 4期目の途中で辞任

経歴を見るに、まさに「研究職」人生

政界に進出するよりも、どこかのシンクタンクで働いていそうなキャリアだ。

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静岡県知事の苦悩

 川勝知事に限らず、静岡県は何かと地理的にツラい立場に立たされていた。

東海道新幹線が東西に横断しており、利便性はよさそう。

しかし全国的に見れば、「東京~名古屋・大阪」の通過点。

さらに、今回のリニア新幹線工事に至っては、さらに悲惨な状況だ。

山間部の地下トンネルだけ通り、リニアの停車駅はない

静岡県の経済界からすると恩恵どころか、ストロー現象で不利益を被る始末。

静岡県知事も、地元政財界から多分な圧力をかけられていたことだろう。

そのためリニア工事に対する姿勢については、川勝知事でなくてもある程度の対抗をするしかなかっただろう

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前静岡県知事の演説手法

 川勝知事の発言は、よくマスコミのやり玉に挙がる。

もともと「リニア建設反対!」で全国的に注目され叩かれているが、その演説手法が稚拙なときがある。

たとえば、Aという地方での演説では、その地だけをほめておけばよい。

しかし、別のB地方の至らない点を挙げて、対比的にAを褒めることがあった。

川勝知事としては、住民向けのリップサービスかもしれない。

しかし県下全域を束ねる知事という立場なので、反発を招くことは容易に想像できる。

この演説手法が、今回の「シンクタンク発言」でも使われてしまった。

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静岡県知事の訓示

 静岡県の2024年度の新規採用職員の入庁式において、川勝知事が訓示を述べた。

これから入庁する新採職員への、大事な歓迎メッセージだ。

そこで述べられたのが、冒頭でも紹介したこの内容。

「県庁はシンクタンク(政策研究機関)だ。毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」

 基本的に新採職員の入庁式では、全国的な注目はない。

地方紙としては注目行事だが、一般的に知事は記憶に残らないような訓示に終始する。

しかしそのような場で、静岡県は全国を巻き込むような騒動になったのだから驚きだ。

 その直後の記者会見で、川勝知事はマスコミから発言の真意を尋ねられると、まさかの辞任発表を行なった。

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「シンクタンク発言」を考察する

 まず川勝知事は、自らのアイデンティティを構成する「学者・研究職」の知事をアピールしたかったのだろう。

 そもそも、「知事」になる方の経歴はさまざま。

傾向としては、都道府県の県議職を長年務め地盤を固めた方、与党のごり押しで送り込まれた元国会議員や元官僚、テレビで人気だった有名人が選挙で選ばれているようだ。

そんな中、川勝氏のような政治歴のない教授が知事になるのは異例だった。

その後、4期目まで続けていたのだから、静岡県民からそれなりに評価もされていたのだろう。

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リニア建設工事と静岡県知事

 先にも述べたようにリニア建設工事で、静岡県知事にはとんでもない重圧がかけられていたのだろう。

政府や国会議員だけでなく、周りの都道府県からもせっつかれる毎日。

だれが静岡県知事を務めても、やさぐれてしまうのではないか。

 そんなタイミングで訪れた、2024年の新採職員の入庁式。

自らのアイデンティティを充分に発揮し、日頃の溜まったうっ憤を発散できる機会だったのだ。

県庁のシンクタンク機能

 はっきり言って県庁に勤めている職員の大半は、シンクタンクの構成員にふさわしくない

なぜならば県庁の一般業務に携わっていても、企画などのスキルが養成されないからだ。

公務員のほとんどが、上層部から命令されたことをそつなく忠実に行なう構成員だからだ。

そのために各県庁は、難しい入庁試験を課したうえで優秀な職員を採用するのである。

 唯一のシンクタンク機能といえば、「戦略部」などの企画担当部門である。

この部署で、各部署の戦略や施策などを企画・サポートしていることが多い。

ただ大半の実働公務員からすると、「あの人たち、何しているの?」と見られることもある。

また自治体によっては、外部に有識者や諮問機関を設け、本当のシンクタンクを形成している場合も多い。

 川勝知事はこのような県庁の現状を憂慮し、新採職員を激励したかったのではないか。

しかし、公務員の業務は、目の前の膨大な仕事をこなすことで目いっぱい。

人員削減され余裕のない職場環境で、企画能力などが養われることはない。

右も左も分からない新採職員を鼓舞するよりも、県庁の職場環境を改善すべきでしたね。

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失われたバランス感覚

 県職員全ての「知性が高い」わけではないが、県庁の採用試験は全国的にかなり難関だ。

そんな難関を突破してきた新規採用職員に対して、同族感や期待もあったのだろう。

 しかしその期待が空回りし、お得意?の「比較話法」を使ってしまった。

純粋に新採職員だけを褒めておけばよかったのに、ほかの農工業種と比較してしまった

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この発言内容では、県職員以外の職種が「知性が低い」と捉えられても仕方がない

どれだけ知性の高い方が解釈しても、不適切・不必要で気分を害してしまう内容だ。

マスコミの恰好の餌食

 もともと「インテリ知事」としてあまり評判の良くなかった川勝氏。

それが「おれたち、県庁は知性が高い!」なんて自称してしまったら、マスコミの恰好の餌食。

県庁の秘書課や川勝氏のブレーンが、訓示内容を事前に確認できていたら防げたかもしれないのに。

周りに諫めてくれる人物は、いなくなってしまったのか。

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私ならこう言う

 もし私が知事だったら、このように訓示するだろう。

「急激に変わり続ける環境を前に、しっかり考え続けられるようになって欲しい。そして得意な方はどんどんその能力を伸ばし、静岡県のシンクタンク機能として大いに活躍してもらいたい。ただ、静岡県民として、現場で汗する住民感覚も必ず身に付けてほしい」

こんなところだろうか。

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けっこう難しい比較話法

 さて、日常でも良く使われる「比較話法」。

Aを持ち上げるために、反対のBを下げることによって対照的にほめる方法だ。

Aが優位に立つことが分かりやすいので、頻繁に使われるのだろう。

 しかし大きな問題は、比較の対象が傷ついてしまうこと

そのため家庭においては、きょうだい間で比較話法はもちろん禁じ手だ。

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今回の静岡県のように、職業で比較するのも論外

そもそも、「公務員」というだけでやっかみを言われるご時世なのだから。

 効果的な状況としては、敵対相手を対象にすること

敵対相手を下げて、自勢力を鼓舞する手法だ。

大学教授で出身でも、そのあたりの使い分けは分からなかったのか、撃沈。

私の入庁時

 私自身も、入庁式のことはよく覚えている。

しかし当時の知事の言葉は、まったく記憶にない。

前日までアルバイトに精を出したせいか、式中はウトウトしていたのだ。

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厳格な感じの入庁式で、進行担当の人事課が最もピリピリしていたのが手に取るように分かった。

今回の静岡県の新規採用職員さんは、まさに記憶に残る入庁式になったようだ。

静岡県庁では、「2024 伝説の入庁式」になるだろう。

まとめ 次の静岡県知事の選挙にむけて

 次の静岡県知事選挙では、与党が「リニア建設工事に賛成」候補を送り込むことは間違いない。

選挙戦では、「住民感情や対話を重視」と叫ばれるだろう。

しかし就任後は、リニア工事進行にシフトチェンジしていく

 ちなみに名古屋の向こうの三重県では、国土交通省出身の元キャリア官僚がしっかりと知事職に就き、リニアを心待ちにしている。

 新知事のスキル面としては、シンクタンク的な研究・分析ができるスキルがあってもよい。

しかし、「住民の感情を読めない/逆撫でする」ような人物は、もう不要だろう。

 ここまで進んだリニア工事に、中止はない。

JR主導の工事ながら、国策にかかわる大きなイベント。

大手建設会社も関わるので、ここで引き返すわけにはいかないだろう。

その流れの中で、新しい静岡県知事としてどこまで住民の民意を反映し、リニア開通の代償を引っ張ってこれる人物なのかが肝になる。

ただ、知事選挙期間中の演説で見極めるのはとても困難だろう。

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